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大阪高等裁判所 昭和62年(ネ)1187号 判決

控訴人

田中恵美子

右訴訟代理人弁護士

辺見陽一

被控訴人

杉本要子

右訴訟代理人弁護士

川合五郎

主文

一  原判決を取消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の申立

一  控訴の趣旨

主文と同旨

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、以下のとおり訂正、付加するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決の訂正

1  原判決五枚目の表四行目の「一還」を「一環」と改める。

2  同六枚目の表一〇行目の「(三)」の次に「(但し、「本件組合事業の一環である」という点は除く。)」を加える。

3  同六枚目裏二行目の「大旨」を「おおむね」と、同七行目の「帳消」を「帳簿」と各改める。

4  同六枚目裏一一行目の「九〇一万四九九七円」を「九〇一万四九七七円」と改める。

5  同六枚目裏一三行目の「三四一一万五五九九円」を「三四一一万五四一九円」と改める。

6  同七枚目裏三行目の「支出し」を「本件組合に貸付け」と改める。

7  同七枚目裏四行目の「一八一万円を」の次に「組合に貸付けており」を加える。

8  同七枚目裏六行目の「のため支出した」を「に貸付けていた」と改める。

9  同七枚目裏八行目の「かつての売却業者」を「その購入先の業者」と改める。

10  同七枚目裏一一行目の「準備書面」の前に「原審における控訴人の同日付」を加える。

11  同一〇枚目裏一〇行目の「が出金され」を「、をそれぞれ本件組合に貸付け」と改める。

12  同一〇枚目裏一二行目及び同一三行目から同一一枚目表一行目の各「出金分」を「貸付分」とそれぞれ改める。

二  被控訴人の主張

1  被控訴人は、昭和五五年八月末からサロンKへは行かなくなったが、それは本件組合を辞めたわけではなく、本件組合契約から脱退したこともない。

2  被控訴人は、本訴請求にかかる出金(貸金)、代位弁済金について、組合ないし組合財産から全く弁済を受けていない。これに対し、控訴人は、その主張の出金(貸金)、代位弁済金、美容室使用料並びに自宅の電気代、水道代などの生活費等を自己が保管している組合財産から支払い、また、控訴人が購入した土地の右購入費、本件建物の建築費、生活用備品代の一部も組合財産から支払っている。

3  被控訴人は、被控訴人が本件組合に対して有する組合債権について、本件組合の会計担当者であって、組合財産を管理、保管している控訴人に対し、組合財産からの弁済を求めるものである。

4  控訴人方の電気代、水道代を組合財産から支払うことについて、後記控訴人主張の合意のあったことは争う。

三  控訴人の認否・主張

1  被控訴人の右1ないし3の主張のうち、控訴人方の電気代、水道代を組合財産から支払っていたことは認めるが、その余は争う。

2  控訴人が、組合のために立替えた金員、訴外川本に支払った代位弁済金、控訴人の土地購入代金、建物建築費、その他生活用備品代を組合財産から支払ったことはない。

なお、控訴人方の電気代、水道代については、本件建物における美容院営業のために使用するのにくらべ、控訴人方の家庭用は少ないので、本件組合発足の当初の被控訴人と控訴人及び川本らの合意により、右営業用の電気代、水道代と一括して組合財産から支払い、格別清算する必要はない約定となっていたものである。

第三  証拠〈省略〉

理由

一控訴人、その姉である被控訴人、右両名の姉である川本彭子(以下単に川本という。)の三名の間で、昭和五三年初め頃、共同で美容室ビューティサロンKを経営することを目的として、原判決事実摘示の請求原因1項掲記(原判決二枚目表九行目から同裏一一行目まで)のとおりの本件組合契約(但し、右請求原因1の(一)の約定のうち「これに付随して二階の一部で文化教室を開設し、煙草、飲料水の自動販売機、公衆電話を設置し」とある部分を除く。)を締結し、同年四月一〇日に本件店舗で本件美容室「ビューティサロンK」(以下単にサロンKという。)を開業したこと、被控訴人が本件組合に対し右請求原因2記載(原判決二枚目裏一二行目から四枚目表九行目まで)のとおり合計九五七万九六三五円の組合債権を有することは当事者間に争いがない。

二被控訴人は、控訴人が二八〇〇万円を下らない本件組合の財産を管理保管しているとして、控訴人に対し、前記組合債権合計九五七万九六三五円の支払を求めている。ところで、組合の債権者は、組合債権の全額について、組合財産からその弁済を受け得る権利があり、このことは、組合員の一人が組合に対して債権を有している場合も同様であり、また、組合の債権者は、右の如く組合財産から組合債権の弁済を受け得る外、組合員個人に対しても、各組合員の損失負担割合に応じて、その弁済を請求し得るものと解すべきである。しかし、組合が解散した場合においては、組合は清算手続に入るから、組合員の一人が組合に対して有する債権については、右清算手続により、組合財産からその弁済を受け、右組合財産から清算手続により弁済を受けられなかった残余の債権については、組合の残余の全債務を各組合員の損失負担割合に応じて按分し、その按分額を超える部分についてのみ、他の組合員にその支払請求をすることができるに過ぎないと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、被控訴人が昭和五五年八月三一日以降サロンKの業務に従事しなくなり、その後控訴人が美容師等の従業員を雇入れて本件店舗でサロンKの営業を継続したが、昭和五七年四月一日から昭和五九年一月までは本件美容室を訴外嘉来秀人に賃貸して、合計八六〇万円を下らない賃料収入を得ていたこと、控訴人が訴外興紀相互銀行から昭和五三年五月三一日に借入れた一五〇〇万円についての同銀行に対する返済として、本件組合の組合財産から九〇一万四九七七円が支払われたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

右争いのない事実及び前記一の争いのない事実に〈証拠〉を総合すると、以下の事実が認められ、甲第一六、第一七号証の各供述記載、原審における被控訴人各本人尋問の結果中以下の認定と異なる部分は信用できす、ほかに右認定を左右するに足る証拠はない。

1  被控訴人、川本及び長姉である訴外川本信子の三名は、いずれも美容師の資格を有し、本件組合契約締結前はそれぞれ美容室を経営していたものであり、控訴人は吹田市穂波町で飲食店を経営していた。

2  控訴人は、右飲食店の店舗を売却し、昭和五二年六月頃、肩書住所地に土地を購入し、同所で飲食店を営むつもりで自宅兼店舗用の本件建物を建築したが、そのころから昭和五三年初めにかけて、被控訴人、控訴人、川本、川本信子の四名の間で、本件建物一階の本件店舗において共同で美容室を経営する計画が話し合われた。そして、右四名のうち川本信子はその後右計画から離脱して、結局、控訴人、被控訴人、川本の三名で本件組合契約を締結した。

3  本件組合契約については、美容師の資格を有する被控訴人と川本は美容師として稼働し、控訴人は主に本件美容室の庶務、会計の事務を担当するものとされたが、各自の出資額については明確な定めはなく、また、各自の手持ち資金や金融機関から借入れた資金を可能な限り出し合って、美容室の開設費用等をまかなうことにした。

そして、サロンKの開店までに、被控訴人が一五五万円を、控訴人が一八一万円を、川本が二〇一万三〇〇円を、それぞれきょ出したほか、控訴人が昭和五三年四月頃に国民金融公庫から三〇〇万円を借入れて(乙第九号証)、これを本件組合にその資金として提供し、また、川本も同年六月六日に国民金融公庫を保証受託者として環境衛生金融公庫から一二〇〇万円を借入れて(甲第一八号証の一)、これを本件組合にその資金として提供した。

これらの資金によって、本件美容室開設当初の費用である内装費八一〇万円が支払われた外、化粧品仕入代、美容室用器具設備代、煙草自動販売機代などが支払われたが、右組合に提供された金員については、本件組合の組合員の間では、本件組合に対する出資金とはされず、むしろ貸付金あるいは立替金とされ、本件組合の収入の中から随時返済して行くものとされていた。

なお、控訴人は、本件店舗を本件美容室に提供するについては、組合との間で賃貸借契約を締結して保証金一〇〇〇万円及び相当額の賃料の支払を受けることを希望したが、被控訴人及び川本との話し合いの結果、本件組合が右保証金及び賃料を支払う代わりに、控訴人が本件建物の敷地の購入資金支払いのために興紀相互銀行から借入れた一五〇〇万円の分割返済を本件組合(サロンK)の収入の中から支払うこととの合意がなされた。

4  そして、吹田保健所に対して、サロンKにつき、川本を開設者、被控訴人を管理者として美容師法の届出(甲第五号証)をしたうえ、昭和五三年四月一〇日に開店した。

5  その後、同年五月末日に、川本が本件組合から脱退したため、それ以降は控訴人と被控訴人の二名だけの組合となった。ところが、サロンKの営業成績は、当初期待された程には上がらず、毎月の売上げのなかから、従業員に対する給料やその他の経費を支払った外に、控訴人と被控訴人とが一か月一〇万円ないし一五万円の報酬を得ていたが、それ以上の収益はなかった。このようにサロンKの経営が思わしくなかったこともあって、次第に控訴人と被控訴人との間に融和を欠くようになり、被控訴人は、控訴人が本件美容室の経営者となり、被控訴人は、一従業員の立場で美容師として就労するかわりに、毎月二〇万円の給与の支払を受けることなどを申し入れたりしたこともあったが、控訴人はこれに応じなかった。そのため、被控訴人は、昭和五五年八月頃、控訴人とサロンKを共同で経営して行くことをやめ、自宅で自分の美容室を開設する意思を固め、業者に依頼して自宅の改装の見積りなどをさせてその準備にとりかかり、同月下旬頃には、控訴人に対してもサロンKをやめる旨告げたうえ、同月三一日に、自分がサロンKに持ち込んでいた美容器具類や、その他その後、サロンKで買った美容器具類で、自己の営業に必要なものを搬出し、同日以後サロンKには出勤しなくなり、その後同年一〇月二〇日からは、豊中の自宅で新たに美容室を開店し、以後被控訴人はサロンKで美容師としての業務についたこともなく、その経営や営業にも全く関与することはなかった。

なお、右昭和五五年八月三一日、被控訴人がサロンKをやめる際に、サロンKの現金(銀行預金)は、五万九五〇〇円しかなかったが、控訴人が他から資金融通して、サロンK(本件組合)から被控訴人に対し、同年八月二五日以降の報酬として一〇万円を支払ったので、その折には、これにより、サロンKの現金はなくなった。

6  控訴人は、自らは美容師の資格を持たないところから、被控訴人がサロンKをやめた後は、その代わりの美容師を雇入れ、控訴人個人の事業として、本件店舗において、美容院の営業を続けていたが、昭和五七年四月から同五九年一月頃までの間は美容師である訴外嘉来秀人に本件店舗を賃貸し、同人において美容院の営業を行った。

7  被控訴人がサロンKをやめた昭和五五年八月末までの間において、前述の経緯で本件店舗の賃料に代えて組合が返済することになった控訴人の興紀相互銀行からの借入金の分割返済の元利金のうち、元金六七五万円、利息二二六万四九七七円の合計九〇一万四九七七円が本件組合の収入から支払われたほか、控訴人のきょ出した三〇〇万円(国民金融公庫からの借入分)についてはそのうち一四一万七九九三円が、また、川本のきょ出した二〇一万三〇〇円についてはその全額が、本件組合の収入からそれぞれ返済された。

なお、控訴人が国民金融公庫から借入れて本件組合にきょ出した三〇〇万円については、本件組合が支払った右元利金一四一万七九九三円の残元利金二一九万七九八七円をその後、控訴人が支払ったので、控訴人は、本件組合に対し、右同額の債権を有する。

また、川本が前記公庫から借入れて本件組合に貸付けた一二〇〇万円については、川本から控訴人及び被控訴人を相手どってその返還請求の訴訟が提起され、昭和五九年五月三一日に言渡された大阪高等裁判所の判決(前記「別件判決」)(甲第二号証)において、控訴人及び被控訴人らに対し、未返済元本とこれに対する遅延損害金、利息金の二分の一の金額を各自支払うべきことが命ぜられ、同判決は確定したため、控訴人は昭和五九年一月一七日までに七七六万〇一五六円(乙第一一号証の一ないし三)を、被控訴人は昭和六一年五月六日までに七八四万三一〇五円を、それぞれ川本に支払ったから、控訴人及び被控訴人は、それぞれ本件組合に対して右同額の債権を有している。

三以上認定の事実によると、川本の脱退後、控訴人と被控訴人の二人だけの組合になっていた本件組合は、昭和五五年八月三一日の被控訴人の脱退により、組合員が控訴人一人になった結果、解散したものと認めなければならない。

被控訴人は、昭和五五年八月三一日以後サロンKに出勤しなくなった事実は認めながら、それはただサロンKに行かなくなっただけで、本件組合を脱退したわけではないと主張するが、前記認定のとおり、同年八月頃には、被控訴人は、控訴人とサロンKを共同経営して行くことを止める意思を固めていたのであり、同月三一日に自分の持ちこんでいた美容器具類をすべて持ち帰り、以後サロンKに全く姿を見せなくなったことは、本件組合契約から離脱する意思であったことは明らかであって、おそくとも同月三一日の右の如き行動によって黙示的に控訴人に対し本件組合から脱退する旨の意思表示をしたものと認めるのが相当である。

そうとすれば、本件組合は、昭和五五年八月三一日に解散され、以後は清算関係に入ったものというべきであるから、被控訴人は、まず本件組合の残余財産の分配等の清算手続の方法により、本件組合に対する債権の回収を図るべきであって、本件組合に対し、九五七万九六三五円の組合債権を有するからといって、本件組合の組合員の一人であった控訴人に対し、直ちに右組合債権全額の支払を求めることはできないというべきである。

四もっとも

1  被控訴人は、本件組合には、少なくとも二八〇〇万円を下らない組合財産が現存し、かつ、控訴人がこれを管理、保管しているから、控訴人に対し、被控訴人の前記組合債権九五七万九六三五円の支払を求め得ると主張するが、本件における全証拠によるも、本件組合に、少なくとも二八〇〇万円を下らない組合財産が現存し、かつ、これを控訴人が管理、保管しているとの事実を認めることはできない。

2  却って

(一) 本件組合が解散した昭和五五年八月三一日当時、本件組合には、現金(預金)が全くなかったことは、前記二の5に認定した通りである。

(二)  また、〈証拠〉によれば、本件組合が解散した後、本件組合の財産として、営業用の椅子六台、アームのドライヤー二台、化粧品の陳列台、シャンプーの洗面器等があったが、いずれも換価価値がなくてこれを引き取るものがなく、しかもその一部は、その後解体処分をされて現存していないことが認められるから、結局、右椅子等の什器備品の組合財産は零というべきである。

(三) 前記二に認定した通り、サロンKを経営するために、当初本件店舗について八一〇万円相当の内装工事が施されたから、本件組合が解散した当時における右内装の現存価額相当のものが組合財産して存在していたものというべきであるが、当時の右内装の現存価額の額を的確に認めるに足りる証拠はない。のみならず、〈証拠〉によれば、本件店舗は、その後一部改造されてパン販売用の店舗として利用され、その余は空室同様にして格別店舗としては使用されていないことが認められるから、右内装の現存価額は、現在においては組合財産としては存在していないものというべきである。

もっとも、本件組合が解散した昭和五五年八月三一日以後同五九年一月頃まで、控訴人個人が、本件店舗を自ら使用し、又は他に賃貸して、これを美容院として利用していたことは、前記二に認定の通りであるから、その間、控訴人が、本件組合の解散当時における本件店舗の内装の現存価額に相当するものを一時的に利用して、これを利得したことが窺われなくはないけれども、その利得の額を認めるに足りる主張立証はないのみならず、右のことから、右利得相当額が組合財産として存在しているとは認め難く、むしろ右利得相当額は、不当利得返還請求等の方法により、別途に請求し得る余地があるに過ぎないというべきである。

なお、控訴人が、昭和五七年四月から同五九年一月頃まで、本件店舗を訴外嘉来秀人に賃貸し、合計八六〇万円を下らない賃料を取得したことは、前記の通り当事者間に争いがないけれども、本件店舗を含む本件建物及びその敷地がすべて控訴人の所有であることは、前記二に認定したところから明らかであるから、右賃料相当額のすべてを控訴人が不当に利得したものでないことは勿論、これが本件組合の組合財産として存在しているものでもないというべきである。

(四) 前記二に認定した通り、控訴人が本件建物の敷地の購入資金の支払いにあてるため、訴外興紀相互銀行から借入れた一五〇〇万円のうち、元金六七五万円、利息二二六万四九七七円の合計九〇一万四九七七円が、本件組合の収入のなかから返済されたが、右興紀相互銀行に対する返済は、本件組合契約締結の際における控訴人、被控訴人、訴外川本らの合意により、本件組合が、本件店舗の所有者である控訴人に対し、保証金や賃料を支払う代償として、右返済をすることになったものであるから、控訴人が右九〇一万四九七七円相当を不当に利得したものではなく、いわんや右返済金相当額が本件組合の組合財産として存在しているものでもないというべきである。

(五)  控訴人は、本件建物の二階の一部で開設された文化教室、煙草、飲料水の販売、公衆電話の設置等は、すべて本件組合による共同事業であったと主張するが、右控訴人の主張事実に副う〈証拠〉はたやすく信用できず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

却って、〈証拠〉によれば、右文化教室の開設、煙草、飲料水の販売、公衆電話の設置等は、すべて控訴人個人の事業として営まれたことが認められる。したがって、右事業による収入を控訴人が不当に利得したものとは認め難いのみならず、仮に不当に利得したものであるとしても、不当利得返還請求により、別途にその返還を請求し得る余地のあることは格別、右利得相当額が、本件組合の組合財産として存在しているものとはいい難い。

(六)  本件組合が本件店舗でサロンKを経営していた間に控訴人が本件建物で個人的(家庭用)に使用した電気代、水道代が本件組合の組合財産(収入)から支払われたことは当事者間に争いがないけれども、〈証拠〉によれば、右組合財産からの支払いについて、当時被控訴人から異議を述べられたことはなく、控訴人方が個人的に使用する電気代、水道代等については、サロンKが使用するのにくらべそれ程多額ではなかったところから、これを本件組合の収入から支払うことについては、控訴人も、これを暗黙に了承していたことが認められるから、右電気代、水道代を控訴人が不当に利得したものとは認め難い。のみならず、仮に不当に利得したものであるとしても、不当利得返還請求として別途にその返還を求め得る余地のあることは格別、右不当利得相当額が本件組合の組合財産として存在しているものとはいい難い。

(七)  被控訴人は、以上の外にも、控訴人が購入した本件建物の敷地の購入代金、本件建物の建築費、生活用品代の一部をも、本件組合の組合財産から支払われていると主張するが、右控訴人の主張事実に副う〈証拠〉は信用し難く、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

3  そうとすれば、本件組合の組合財産は現存していないというべく、仮に現存するものがあるとしても極めてわずかであって、かつ、その交換価値はないものというべきであるから、本件組合財産を分割清算して、控訴人主張の組合債権の支払に充当することはできないというべきである。

次に、被控訴人は、本件組合に対し、前記の通り、九五七万九六三五円の組合債権を有するけれども、一方、控訴人も、本件組合に対し、前記二に認定した通り、本件組合の発足当時に本件組合にきょ出した一八一万円、別件判決により支払を命ぜられて訴外川本に支払った七七六万〇一五六円、控訴人が国民金融公庫から借入れて組合にきょ出した三〇〇万円のうち控訴人が国民金融公庫に返済した元利金二一九万七九七八円、以上合計一一七六万八一四三円の組合債権を有しており、本件組合からその返済を受け得なければ同額の損失を被る関係にあるところ、本件組合における控訴人と被控訴人との損失の負担割合は、前記の通り平等で各二分の一あるから、本件組合の組合財産から返済を受け得られない被控訴人の前記組合債権九五七万九六三五円について、本件組合の組合員の一人であった控訴人にその支払義務があるとすることは、本件組合における控訴人の損失負担割合を超えて、控訴人に本件組合の損失を負担させることになって、不合理であるというべきである。したがって、被控訴人は、控訴人に対し、右組合債権九五七万九六三五円の支払を求めることはできないと解すべきである。

4  以上の次第で、本件組合には少なくとも二八〇〇万円を下らない組合財産が現存するとし、かつ、控訴人がこれを管理、保管しているとして、控訴人に対し、前記組合債権九五七万九六三五円の支払を求める被控訴人の本訴請求は失当というべきである。

(なお、仮に、被控訴人が、本件組合の組合員であった控訴人に対し、前記組合債権九五七万九六三五円の支払を求めることができると解した場合には、控訴人も、本件組合に対し一一七六万八一四三円の組合債権を有しているから、これを被控訴人に請求し得ると解すべきところ、控訴人が被控訴人に対し、本件口頭弁論期日において、被控訴人の前記組合債権と控訴人の前記組合債権とを対当額で相殺する旨の意思表示をしたことは本件記録上明らかであるから、これによって、被控訴人の組合債権は消滅したというべきである。)。

五よって、被控訴人の本訴請求は、以上いずれにしても、失当であって、これを棄却すべきところ、これと異なる原判決は不当であるから、これを取消して被控訴人の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官後藤勇 裁判官髙橋史郎 裁判官横山秀憲)

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